新潟大学工学部材料科学プログラム
新潟大学大学院自然科学研究科材料生産システム専攻
三俣研究室 Mitsumata laboratory
可変弾性ソフトマテリアル(Variable Elastic Soft Material)は、弾性率を自在に変化させることができる材料です。当研究室ではこれまで、磁場に応答して弾性率が劇的に変化する材料「磁性ソフトマテリアル」を開発してきました。これは高分子ゲルやエラストマーなどのソフトな材料に磁性微粒子が分散された磁性コンポジット材料です。永久磁石を近づけると、プリンの硬さから軟質プラスチックまで変えることができます。弾性率の変化率は500 倍。世界最高レベルです。磁場で粘弾性が変化するこのような現象は磁気粘弾性効果(magnetorheological effect)と呼ばれています。
サクラン(sacran)は九州の黄金川に生息するスイゼンジノリ(Aphanothece sacrum)から抽出される日本固有種の多糖類です。 多糖類には寒天やカラギーナン、ヒアルロン酸などが良く知られていますが、サクランは非常に長い糖鎖をもつことが特徴です。
当研究室では、低周波誘電緩和法(low-frequency dielectric relaxation)により鎖長が数ミクロンに及ぶことを明らかにしました。高い吸水率(6000倍)、希土類金属イオンの選択吸着、低速流動下における逆チキソトロピーなどの興味深い物性を示します。 また、カルボキシル基と硫酸基をもつサクランは、高分子電解質の巨大鎖としても興味深い研究対象です。この糖鎖の抽出に世界で初めて成功した北陸先端大学の金子研究室と共同で、鎖の形態(へリックス形成、ゲル化、液晶性)とカウンターイオン凝縮との相関について調査しています。天然の多糖類が示す特異な物性の解明、その生物学的役割の解明を目的としています。
アクチュエーター(actuator)とはロボットの手のように物体を動かしたり、制御したりする装置(素子)です。 当研究室で は、アクチュエータのなかでも柔らかい素材でできたソフトアクチュエータ(soft
actuator)を開発しています。柔らかい材料を用いることで、物体を傷つけることなく掴んだり、移動したりすることができます。近年、人に優しいアクチュエータとして注目されています。水系高分子ゲルに磁性粒子を分散させた磁性ゲル(magnetic
gel)は、磁場に応答して伸び縮みします。この伸縮を利用してロボットハンドを作ることができます。また、磁性ゲルを着磁すると回転磁場に応答して回転運動するようになります。これを利用して送液ポンプを開発しました。チューブの中に溝を加工した磁性ゲルのローター(rotor)を入れ、下から回転磁場を与えるとローターが回転し、チューブ内の液体が流れます。ローターは柔らかい素材なので、曲がりくねった流路でも使うことができます。また、非接触で駆動できることも大きなメリットです。ローターは200μmまで微小化することができ、バイオチップなど、マイクロ流路での応用を検討しています。
温度、pH、溶媒などの刺激によって物性が変化する材料を刺激応答性材料(stimuli-responsive materials)と呼びます。例えば、Nイソプロピルアクリルアミドゲルは温度に応答して透明性が変化します。当研究室では、ポリビニルアルコール(PVA)とケイ酸ナトリウムのナノコンポジットゲル(PVA/Sodium silicate nano-composite gels)を合成しました。低温から30℃付近まで温度を上げると、ゲルが白濁します。白濁する温度はPVAとケイ酸ナトリウムの混合比で自由に変えられます。温度変化に応じて透過率が繰り返し変化するので、新しい遮光材料、使い捨て温度センサへの応用を検討しています。
本研究で、PVA鎖がケイ酸ナトリウムに吸脱着することで透明性が変化することが明らかになりました。
石油などの枯渇する化石資源を使わないために再生可能な生物資源から作られる高分子材料、バイオベースポリマーの開発は必要不可欠です。
バイオプラスチックにはトウモロコシ由来のポリ乳酸などがよく知られていますが、耐熱性に乏しいため応用範囲が限られています。
当研究室では、北陸先端大の金子先生、筑波大の高谷先生、神戸大の川口先生と共同で耐熱性に優れたバイオプラスチックの研究を進めています。
このプラスチックはガラス転移温度が350℃以上と高いこと、透明性が高いことが特徴です(図1)。
当研究室では電気抵抗率測定、絶縁破壊電圧測定によりこのプラスチックの電気絶縁性を評価しています。
バイオで得られたプラスチック(バイオポリイミド)が石油由来のものと同程度の高い電気絶縁性を示すことを世界で初めて示しました(図2)。
透明性が石油由来のポリイミドよりも高いため、電気絶縁性、耐熱性に優れたバイオポリイミドはフレキシブル太陽電池やディスプレイへの応用が期待されています。
バイオポリイミドにITOの導電層を付与し、高温熱処理することで表面抵抗104Ω/□の電極が得られています(図3)。